139) 赤ちゃん返り [自伝本『私のこと』]
長男が2才3ヶ月になる頃、第二子である長女が生まれた。
第一子が2〜3才の間に第二子が生まれると、“赤ちゃん返り” することが多い。
これは、新たな登場人物に対して 不安と警戒を感じることで起きる
要するに “嫉妬” に近い状況であろう。
ある情報によると、まるで 突然愛人が現れ これから一緒に生活します ! 的な
とても感情を抑えきれない状況なのだ。
環境や年齢・性格によって、表現はさまざまなのだが
単純に、自分も赤ちゃんに戻ったように おっぱいや抱っこを求めてきたり
なかなか表現できない場合には、自分の頭を壁に打ちつけたりする
自虐的行動を起こすこともある。
私も いろいろなケースを聞いていたので
できるだけ長男とスキンシップをとり、甘えさせてあげた。
一番良かった事は、長男が生まれた頃の写真を一緒に見て
「こんなに可愛かったよ〜、あなたはパパとママの一番最初の宝物なんだよ〜。」
などと説明しながら、いっぱいお話をした。
だが、やっぱり始まった。 赤ちゃん返りが・・・。
日中は いつも通りの様子だったが、問題は “夜泣き” であった。
第二子の登場から、一週間が過ぎた頃
決まって夜中の一時半になると、ものすごい叫び声を上げた。
泣くというより叫ぶといった感じで、涙は出ず 目を覚ましてもいない。
名前を呼んで 起こそうとしても、全く反応がない。
まるで何かに取り付かれたようであった。
長女が3ヶ月になる頃の夏休みに、私の実家に帰省した。
夜泣きは相変わらず続いていたので、私の気分はちょっとへこんでいた。
両親や兄夫婦には すでに説明していたが、特に母が心配していたので
「私達がちゃんと見ているから、わざわざ起きてこなくていいからね。」
と言っておいたのに、母はやっぱり起きてきて 心配そうに長男を優しく撫でながら
「ママが疲れているから、ちゃんと寝てあげてね。いい子だから、ね。」
と言ってくれた。
思わぬ言葉を聞いて、涙が溢れてきたのだった。
母は、やっぱり私のお母さんなのだ。
何より、私を気づかってくれた言葉だった。
夜泣きが始まって以来、疲れがたまっていて
しかも、もうすぐ長女を連れて 仕事に復帰する予定だったので
頑張らなきゃ・・・と ばかり思っていたから、
母からの優しい気持ちに触れ、私の中の大きな荷物が降りたような感じだった。
泣き疲れて ボーッとしている息子の顔を見て、ますます涙が溢れてきた。
「力輝だって、どうしていいかわからないんだよね・・・
ママを困らせたいんじゃないよね・・・。」 と言うと
さっきまで無表情だった彼の目から、大きな涙が一粒 スーッと流れ落ち、
コクリとうなずいたのだ。
≪本当にそうだ ! 彼はどうしていいかわからなかったんだ ! ≫
直後に 彼は、安心したような顔で、私の腕の中で眠ってしまった。
この日以来、彼の夜泣きはなくなったのである。
考えてみると、大人でも子供でも 何かマイナスなことが起きた時
そのこと自体を排除する方向で必死になるより
そうなった原因や相手の気持ちを気づかってあげた方が
結果、プラスに向くことが多いものだ。
人に優しくされた時こそ、自分も穏やかになり 勇気や努力で頑張れるものなのだろう。
目には目を・・・ではなく、
目だろうが、鼻だろうが、優しく包み込んでしまう 母のように・・・。
この後も 子供達の成長と共に、難しい時期を迎えるわけだが
わかっていても なかなか母のように優しく包み込めない私であった。
2010年04月14日(水)