年表

50) ダイコン(?!) [自伝本『私のこと』]

そんな 苦い反発 真っ只中の私に
いよいよ 人生の選択を予感する 事件が起きた。
 
美容師の母は、相変わらず 夕食を一緒に食べられない。
いつも そうだった。
 
作り置きの夕食を、父と兄と私の3人で食べ始め
食べ終わる頃に、母が仕事を終え 一人食べ始める。
兄が 大学で上京している頃は、もっと淋しいものだった。
その淋しさが、さらに母の仕事に嫌悪感を感じさせていく。
     
ある日の夕方・・・
 
お店で ぼんやり雑誌を見ていた私は
母の仕事が終わりそうなのに気付き
≪今日は一緒に夕食を食べられるかも・・・♪ ≫
と、ほのかな期待を抱いていた。
 
当時は、特に 地方の美容院では、個人経営のお店が多く
特別な日以外で予約される方は ほとんど無く
来店されたら やるだけだった。
終了時間も 有って無いようなものだ。
 
母は 片付け始め、私は 心の中で ウキウキしながら
待っていることを悟られないように
雑誌を読んでいる振りをして待っていた。
 
そこに 突然、ドアの開く音と 一人のおばあさんが立っていた。
 
大きな風呂敷包みを担いでいた。
母は、「いらっしゃいませ!」 と言う。
 
私は ≪え゛ー− お客さん ?! ≫  私はブルーになった。
 
その方は、何やら お嫁さんと喧嘩したらしく
ひたすら 愚痴を言って、挙げ句の果てに
「だから、お金を持ってない・・・」 と言う。
「パーマをかけて欲しいんだけど、この大根でどう?」 と言うのだ。
大きな風呂敷包みの中には、大きく太い大根が3本入っていた。
 
私はブルーを超えてダークになった。
 
そして、母がどうするか心配だった。
母なら、私が待っていたことは理解していたに違いない。
 
次の瞬間、母は口を開いた。
「こんな おいしそうな大根は 買えませんからね〜、ありがとうございます。」
と、笑顔だった。
 
私は、あっけにとられた。
いくら あの時代とはいえ、いくら 田舎とはいえ
ダイコン3本で パーマをかける ???
信じられない!
 
その後、父が 夕食の時間だ と、呼びに来たが
母の その仕事ぶりを見ずにはいられなかった。
 
私の頭の中には、一つの疑問があった。
 
子供の頃から 母の仕事は見ていたが
≪なんで こんなに楽しそうなんだろう・・・≫
ただ それだけだった。
 
こんなに遅い時間に
私を振り切ってでも
お金がなく、ダイコンしか持ってきてなくても
なぜ 母は、こんなに楽しそうに 美容という仕事をしているんだろう。
仕事って、そんなに楽しいのだろうか?
 
この時、今までの嫌悪感を感じるのではなく
すっかり興味に変わっていた。
 
結局、そのことは 母とも会話せず
ただ ただ 私は
その方が帰るまで
ずっと ずっと
母の仕事を見ていたのである。
 
 
 

 

 

2009年05月15日(金)

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