年末に向い、いよいよ 進路を決める最終時期となった。　
　
私は ひとり 決意していた。
　
幼少の頃から、母の美容師という仕事に嫌悪感を持ち
大惨事の “おにぎり事件” や
土・日も 母親と満足に遊んでもらえなかった淋しさが重なり
いろいろ反抗してきた私だったが
ダイコンのおばあちゃん以来、母の仕事への興味は確かにあった。
　
それに、母の影響で 母の妹や義妹たち 3〜4人が美容師の資格を持っていた。
遊び慣れ親しんだ美容道具たちや、美容室という空気を吸ってきた私自身
美容という環境に、どっぷり浸かっていたのは事実だった。
　
そして やっぱり 母の後ろ姿は 立派だった。
　
≪やるべきことは 見つかった・・・　あとは方法だ！ ≫
　
私は、父母に内緒で 東京の美容学校のパンフレットを6校分取り寄せた。
そして、独り 東京へ向かった。
中野に住む 叔父さんの家に行き、事情を説明して、アパートまで決めた。
学校も決めた。
あの時は、我ながら 行動力があったものだと感心している。
　
帰宅した私は、父母に ｢大事な話がある。｣ と
初めて 改まった口調で 話をしたのだった。
　
話は 簡単な事後報告から始まった。
　
｢美容師になります。｣ と言うと、父母の顔は ほころんだ。
｢東京に行きます。美容学校も決めてきました。｣
父母の表情が止まった。
｢美容学校なら 東京じゃなくても 新潟にも あるじゃないか！｣ と言う。
想定していた通りの言葉に ひるまず
｢私は 東京に行って、将来 雑誌に載るような美容師になりたい。
そして お母さんのお店を継いで欲しい なんて言えないような有名な美容師になります・・・
だから 将来は帰って来ません。｣
　
実は、この時の父母の気持ちを 今まで 聞いたことはない。
今 娘をもった私だったら
大きな心配と淋しさが こみあげてきたに違いない。
　
ただ あの時 私は
両親に自分の気持ちを きちんと伝えられた という達成感と
絶対に続けられる という自信で
そわそわするくらい 盛り上がっていたのだった。
　
だが 同時に、≪もう、帰るところはない・・・≫
親の死に目にも会えない覚悟ができていたことも 事実であった。