83) かなしい別れ [自伝本『私のこと』]
美容師として三年目を迎える頃だった。
中学の体操の恩師であった <くぼじぃ> が亡くなった。
胃ガンであった。
彼には、「器械体操」 という言葉に含まれる全部の想い出も然る事ながら
私の人生で 最も強力な武器である
“完璧なイメージトレーニング ” を教わった、いわば 恩人である。
国家試験やカットチェック・・・ いろんな難関を乗り越えてきた私だが
それは まさに 最終イメージが正確に見えていたからと言えよう。
とは言うものの、私達 体操部のメンバー全員
中学卒業以来、何度かしか お会いしていなかったし
高校卒業後は、住む場所もバラバラで、ほとんど連絡もしていなかった。
地元に住む同期から、 「体調が悪く、入院している・・・」 と知らせが入った。
取り急ぎ、次のお休みで帰省し、お見舞いに行った。
病室に入った私は、涙があふれるのを止められなかった。
久しぶりにお会いする顔・・・ とても とても やつれていた。
体も すっかり痩せてしまって、以前の凛とした姿勢はない。
何と言葉をかけていいか わからなくなってしまった。
「久しぶりだな、頑張っているんだな。」 と 逆に声をかけてもらった。
本当に久しぶりに会う奥様は、私を見て ほほえんでさえくれた。
もう何を会話したか覚えていないが
気の利いた言葉もかけられず早くこの場を去りたい気持ちと
もう二度と会えなくなる気がして帰りたくない気持ちと
闘っていた。
≪おじいちゃんの時と おんなじだ・・・ ≫
一番辛いのは、くぼじぃ本人であろう。
病室から出る時
私に手を振ってくれた 最後の しわくちゃな細い手を見ているのが
精一杯な私であった。
2009年09月22日(火)