97) 出会い [自伝本『私のこと』]
SHIMA に 企画・広報 として 新入社員が入ってきた。
昨日までは 美容師をやっていたが、ハサミを擱(お)き
新たな道に挑戦するという・・・。
彼こそ、今の私の主人である。
彼は、私の同期でもあり ライバルでもある人物の 弟だった。
美容師の免許取得後、単身 ロンドンへ渡英・・・、約一年半後、帰国。
某 有名美容室のオープニングメンバーとなり
その後 SHIMA にいた兄の誘いにより 入社することとなった。
なぜ ハサミを擱くことになったかは、多くを語らない彼だが
美容師以上に興味を持った “プランニング ” ”プロデュース” に対し
多くの夢を語っていた。
彼との出会いは、「ビビッときた ! 」 とか言う話題の感じとは ちょっと違うが
気になる存在であったことは確かであった。
実は、以前 彼がまだ美容師だった時、お互い 大阪での仕事で会っている。
彼の兄である同期と一緒だったため、紹介されていたのだ。
私はすでに、雑誌やショーなどに出ていたため
彼は 私を知っている様子だった。
彼が入社して 半年経った頃の春、毎年 新入社員歓迎会が行われ、彼も同席した。
盛り上がり、二次会のクラブでは 意気投合し、これからの夢や希望を語り合った。
彼は 年下だったし 後輩だったため、常に私に対し 敬語で接していた。
そんな彼が 次に私を見かけた日、黙ったまま 私を見つめ
“ウインク ” をしてきた。
瞬間、私の心が ピクッと動いた。
そう、動いたのだ。
私なりに、年下・後輩 という意識は、何かの制御に他ならないものであったし
まさか 恋愛感情などに発展することは ない、と思っていた。
それに、私には 彼氏もいた。
≪ ありえない・・・ ≫
そう 心に言い聞かせていたはずだった。
でも、完全に 動いたのだ。
今のウインクで 完全に心が動いたのがわかった。
付き合っていた彼と 別れることに決めた。
大変だった。
なぜなら、その彼とも お互い尊敬し合っていたし
私のことを感覚的なところで深く理解してくれていて
私も 彼といると、思いっきり自分を出せていた。
なのに、あのウインク一つで 何の保障もないまま
彼に動かされてしまったのだ。
丁度、大きなヘアーショーの真っ只中であったため
私の身体も 心も、多忙なスケジュールであった。
そして 雑誌の撮影も重なり、私の疲労感が MAX な状態だった日
撮影を終え、アシスタントスタッフと軽く飲みに行った。
その頃、彼は すべての撮影に同行していたので
サロン以外の場所で 私の仕事ぶりを度々見ていた。
いつもなら、お疲れビールとヘビースモーカーな私だったが
この日の疲れ具合は 最悪で、一口吸った煙草を消し トイレに向かった。
彼は、アシスタントでさえ わからなかった 私の異変に気付き
早く帰るよう勧めてくれた。
それまで 割と強気なタイプの私に対し
気にかけてくれる一言一言が、私の心を動かしていた。
そう・・・、あの “ウインク ” のように
彼の言葉は とても温かかったのであった。
2009年11月10日(火)