年表

12) 大惨事 [自伝本『私のこと』]

一生忘れないといえば、食に関する大惨事がある。
それは <遠足のお弁当>
 
お友達のA子のお弁当箱には、今でいう キャラクター(かわいい女の子)が描かれていた。
本体は白で、絵がついているフタの部分は ピンク色の プラスチック製のお弁当箱で
なんと ピンク色のチェック柄の 布ナプキンに くるんであった。
まさに “女の子の” お弁当だった。
 
そのフタが開く。 中身も美しかった。
白いご飯の上に ピンク色の斜め切りしてある 焼きタラコがのっていて
ミックスベジタブル入りの色鮮やかな玉子焼き
そして 極めつけが、ほうれん草のバターソテーに エビが かわいらしく 丸くなって 収まっていた。
まるで 家では 見たことのない色合いが 品良く、そう 品良く 現れたのだ。
後光が射して見えた。 本当だ。
 
それと同時に、朝、母に渡された イヤ〜な物を思い出した。
それは、大人の手にでも大きすぎる位の 海苔で真っ黒にまかれた
巨大な丸い、ただ丸い おにぎり・・・。
しかも、新聞の広告でくるまれ、輪ゴムでパチンと止められた
女の子にとって 最もブサイクなものだった。
 
恥かしさを隠しきれず、大急ぎで 抹消すべく 口に運ぼうとした、 その時
なんとA子は 「うわ〜 おいしそうな 大きなおにぎり・・・そんなに大きなおにぎり 見たことなーい!」
≪確かに見たことないだろう・・・私もない≫
「半分 取替えっこしよ ♪ 」 というのだ。
 
のどから手が出るほど A子のお弁当は食べたかったが
不安が走り、まず 母の巨大おにぎりを一口 ぱくついてみる・・・。
あ゛ー 不安的中 !!
なんとなんと パーマ液の臭いがしたのだった。
 
昔のパーマ液は 今よりも臭いがきつく、よく手を洗っても
暖かいご飯をにぎる際、臭いが移ったとしても不思議ではない。
現に今、私が同じようなことをしても、パーマ液とかムースやスプレー・・・
とにかく 美容師臭い おにぎりに なるかもしれないと思うからだ。
 
極限の恥かしさで、A子のお弁当との半分交換も忘れ、一目散に食べた。
パーマ液を食べた。
A子は 「え゛ーー なんで全部食べちゃうのーー?!」 と
残念そうに言ってくれたが、小学生の私に きちんと説明出来るわけもなく
まして、笑いでごまかせる余裕もなかった。
≪あー・・・。 いとしのお弁当・・・さようなら・・・≫
 
そして、パーマ液の臭いのする母が嫌いになった。
美容師という仕事を恨んだりした。
 
私の顔は、恥かしさと怒りで たぶん 真っ赤だったに違いない。
 
私が なぜ こんなにも A子のお弁当をよく覚えているのかというと
帰宅して 真っ先に スケッチしておいたからだった。
そして、母に 涙ながらに訴えた。
パーマ液の臭いのする ブサイクな おにぎりを食べた気持ちを・・・。
あまりの怒りで、衝動的に 水筒を母の肩に投げつけてしまった。
命中した。
一瞬  ≪ごめんなさい・・・≫ という気持ちはあったが、こらえきれない。
 
その夜、なぜか その夜に限って、トイレに起きた。
トイレ近くの両親の部屋の戸が 少し開いていて、明かりがこぼれている。
中に両親がいたのが見える。
父が 母の肩に手をかけ、なぐさめているようだった。
母の一言が聞こえた。
「ちゃんと 手を洗ったのに・・・」   泣いていた。
まるで ドラマを見ているような光景・・・ すごいタイミングだった。
 
私の怒りは おさまり、代わりに 後悔でいっぱいになった。
 
≪ごめんなさい おかあさん・・・≫ と 声に出しては 言えなかった。
 
 
 

2008年12月27日(土)

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